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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)216号 決定

疎甲第二号証の二(実用新案出願公告昭五〇―三四九七号公報。原決定末尾添付の実用新案公報(一)であつて、以下単に「公報(一)」という。)によれば、乙考案の技術内容として、次のことが一応認められる。

1 乙考案の構成要件は次のとおりである(以下乙考案の説明について使用される符号の表示は、公報(一)の図面に記載のものを指す。)。

(イ) 高電圧を印加した電撃格子(3)の外側に保護カバー(A)を被冠した殺虫器において

(ロ) 外匡(2)へ保護カバー(A)を掛脱自在に掛止し、

(ハ) 前記掛止部(4、10)に保護カバー(A)を常時外側へ押圧するスプリング(5)を介装すると共に、

(ニ) 保護カバー(A)が外匡側へ所定距離摺動すると、遮断側へ作動するスイツチ(13、14)を高電圧回路へ介装してなる

(ホ) 殺虫器における保護カバー装置。

2 乙考案の目的は、電撃殺虫器の保護カバーにおいて、保護カバーを接触加圧すると、これが摺動してスイツチを切り、保護カバーより押圧力を去れば、旧位置に復帰して、自動的にスイツチが入るようにすることにある。

3 乙考案の作用効果は、次のとおりである。

(一) 保護カバーが外部から加圧されて傾斜し、正しい位置にないときには、リミツトスイツチが加圧されて動作し高電圧回路を遮断し、不慮の災害を未然に防止しうること。

(二) 右加圧力が除かれて、保護カバーがスプリングの弾力により自動的に正しい位置に復帰し、リミツトスイツチも旧位置に復帰すれば、高電圧回路が閉鎖し自動的に電源が入ること。

三 丙考案の技術内容

疎甲第九号証(実用新案出願公告昭五〇―四五〇二二号公報。原決定末尾添付の実用新案公報(二)であつて、以下単に「公報(二)」という。)によれば、丙考案の技術内容として次のことが一応認められる。

1 丙考案の構成要件は、次のとおりである(以下丙考案の説明について使用される符号の表示は、公報(二)の図面に記載のものを指す。)。

(い) 高圧電撃格子(2)を上下に並列し、その外側に保護カバー(3、4)を着脱自在に取付けた電撃殺虫器において、

(ろ) 保護カバー(3、4)の内側に突設した操作ピン(9、10)を、昇降自在に設置した操作レバー(14)上へ支承し、

(は) 操作レバー(14)の下部へマイクロスイツチ(15)の作動片(16)を弾接させ、

(に) 該マイクロスイツチ(15)を電撃格子(2)の電気回路へ当接してなる、

(ほ) 電撃殺虫器における安全装置。

2 丙考案の目的は、電撃格子への高電圧を印加し、これに虫類が接触すると瞬間に死滅するようにした電撃殺虫器において、電撃格子の外側に設けた保護カバーに人体が触れると、自動的に高電圧回路が切れ、不慮の危害を未然に防止する安全装置を提供することにある。

3 丙考案の作用効果は、保護カバーの操作ピンとマイクロスイツチとの間に、昇降自在で傾動自在な操作レバーを介装し、保護カバーを正しく保持したときには、操作レバーを水平に保つようにしたので、保護カバーに外力が加わると、保護カバーは移動し、その操作ピンも前進して、操作ピンが操作レバーと当接しなくなるので、マイクロスイツチの作動片によつて操作レバーを押し、マイクロスイツチが切れ、自動的に高圧電源を遮断して、不慮の事故を未然に防止しうることである。

四 乙考案とハ号物品との対比判断

1 両者の構成を比較するに、乙考案における「電撃格子」(3)はハ号物品における「電撃格子3」に該当し、以下同様にして、前者の「外匡」(2)は後者の「外匡2」に、前者の「保護カバー」(A)は後者の「保護カバーA、A1」に、前者の「リミツトスイツチ」(13、14)は後者の「リミツトスイツチ14」にそれぞれ該当していて、これらは同等の技術的手段であるとともに、後者の「電撃格子3」にも、前者のそれと同様、高電圧が印加され、そして、その外側に「保護カバーA、A1」が被冠されていて、保護カバーが所定距離だけ摺動すると、高電圧回路に介装された「リミツトスイツチ14」が作動してその回路を遮断するようにされているので、前者の構成要件(イ)、(ニ)及び(ホ)は、後者においても具備されていることが明らかであつて、このような一般的構成に関する限り両者は一致する。

しかしながら、両者の具体的な構成の間には、

(一) 前者が構成要件(ロ)、すなわち、外匡(2)へ保護カバーを掛脱自在に掛止したことを必須とするのに対し、後者におけるこれに対応する構成は、外匡2のほぼ中央部に突設した縦溝18に遊嵌されている支持板16に、保護カバーが支持棒4、4aと係止孔10、10aとの係合によつて、掛脱自在に掛止されているものであること。

(二) 前者が構成要件(ハ)、すなわち、前記掛止部(4、10)に保護カバー(A)を常時外側へ押圧するスプリング(5)を介装したことを必須とするのに対し、後者におけるこれに対応する構成は、保護カバーが掛止されている支持板16の中央部の突片19と外匡2間に、引張りコイルバネ5、5aが張設されたものとなつていること。

という明確な相違点が存し、後者は前者の構成要件(ロ)及び(ハ)を具備していないので、両者は、結局、構成を異にするものといわなければならない。

2 なお、両者の目的、作用効果について言及するに、乙考案の目的のうち、保護カバーを接触加圧すると、これが摺動してスイツチが切れるようにすること、及びその作用効果(一)、すなわち、保護カバーが外部から加圧されて傾斜し、正しい位置にないときには、リミツトスイツチが加圧されて動作し高電圧回路を遮断し、不慮の災害を未然に防止しうることは、ハ号物品においても同様であるといえるが、乙考案は、右の目的、作用効果のみにとどまらず、さらに、保護カバーより押圧力を取去れば保護カバーが旧位置に自動的に復帰して、自動的に高電圧回路のスイツチが入るようにすることをも、他の目的として設定するとともに、作用効果(二)、すなわち、加圧力が除かれて、保護カバーがスプリングの弾力により自動的に正位置に復帰しリミツトスイツチも旧位置に復帰すれば、高電圧回路が閉鎖し自動的に電源が入る、という作用効果を奏するものである。このことは、公報(一)によつて一応認められる乙考案の明細書の考案の詳細な説明の項中の次の各記載、すなわち、乙考案がその解決の対象とした従来技術の問題点に関する、「元来、電撃殺虫器は……一旦保護系が動作すると、原因がなくなつても各部は自動的に旧位置へ復帰しないものが多い。然るに、この考案は、保護カバーへ自動復帰用のスプリングを取付けることにより、簡単な構造により保護系を自動復帰できるようにして上記従来の欠点を解決したのである。」(1欄二二行~三二行)との記載、及び乙考案の実施例の動作の説明としての、「上記実施例において……この場合に加圧力を除けば、保護カバーAはスプリング5の弾力によつて自動的に旧位置へ復帰するので、リミツトスイツチの作動片も旧位置に復帰して高圧回路を閉鎖する」(2欄九行~一七行)との記載に徴し明らかであり、押圧力の除去に応じて保護カバーが旧位置に自動的に復帰し、さらにリミツトスイツチもまた自動的に復旧して高電圧回路の電源が入る、という、いわば「完全な自動復帰」を意味するものと解される。

他方、ハ号物品においては、復帰の動作については何らの説明もされておらず、その図示の構成及びそれに関する説明内容からすれば、せいぜい、手動で保護カバーを旧位置に復帰させると、リミツトスイツチが働いて自動的に電源が入る、という目的、効果を肯認しうる程度のことであつて、ハ号物品に対しては、前記のような意味合での完全自動復帰に関する目的、効果を期待することはできない。

3 抗告人は、乙考案の構成要件(ハ)における「掛止部に保護カバーを常時外側へ押圧するスプリング」としては、押圧スプリングを用いようと、引張りスプリングを用いようと問題でなく、要は自動復帰の作用を営むスプリングでありさえすればよいところ、ハ号物品における「引張りコイルバネ5、5a」は、保護カバーが正位置にあるとき、保護カバーを外側に押圧するのでなしに、それを引張る作用をするものであるが、第3図矢印26のように保護カバーA1を押圧するとコイルバネ5aが伸び、そこで押圧力を取去ると、コイルバネの収縮力により、保護カバーA1は矢印24の方向に復帰する故、コイルバネ5aは復帰作用を呈するスプリングであるということができるものであり、そして、元来、スプリングを用いて物品を一方向へ保持する技術(自動復帰を可能ならしめる技術)において、圧縮(押圧)コイルバネと引張りコイルバネのいずれを使用するかは、単なる設計上の選択事項にしか過ぎず、しかも、ハ号物品においても、乙考案の作用効果(二)と同等のものが奏される以上、結局、両者は同一の考案に帰着し、後者は前者の技術的範囲に属するというべきである、と主張する(抗告理由一)。

右主張の当否につき検討するに、公報(一)によれば、乙考案の図面第2図に示す実施例においては、保護カバーAの縁材9の上下に掛止孔10を設け、その内部に電撃格子3が設置された外匡2の正面及び背面の左右縦縁には、L字状の支持棒4を設けて、これらの各掛止孔10と各支持棒4により保護カバーAを外匡2に掛止し、これらの掛止部のそれぞれに、保護カバーを常時外側へ押圧する復帰スプリング5を介装して成る構成が一応認められ、右構成は、乙考案の構成要件(ロ)、(ハ)の規定するところを具体化した構成であつて、右のような構成によつて初めて、乙考案における自動復帰に関する目的、効果が招来されるものということができる。そして、右の構成は、右実施例の、リミツトスイツチ13、14にそれぞれ作動杆11、12を当接させた構成部分(この構成部分は公報(一)によつて一応認められる。)とは全く別個に設けられているために、右構成による自動復帰が有効に行われるものと解される。

これに対して、ハ号物品においては、保護カバーA、A1は、その内部に電撃格子3を設けた外匡2に直接掛止されているのではなく、外匡2の左右ほぼ中央部に穿設した縦溝18に支持板16を遊嵌し、この支持板16に設けた掛止孔10と保護カバーに設けた支持棒4との挿入掛止により、支持板16を介して間接的に、それらの外匡への掛止が行われており、このような構成部分のほかには、保護カバーの掛止ないし支持の役割を担う部材を見いだすことはできない。それのみならず、引張りコイルバネ5、5aは、外匡2の両内側部と右の支持板16(乙考案の作動杆11、12に相当する突起17をその下端中央に具備している。)それ自体の上部中央の突片19との間に張設されているのであるから、押圧力により引張りコイルバネに収縮力が生じても、このことから直ちに、押圧力を取去つたとき、この収縮力の働きだけによつて、保護カバーがその正位置に復帰せしめられると断定するわけにはいかない。

してみれば、抗告人のいうように、諸般の技術分野において、圧縮(あるいは押圧)コイルバネと引張りコイルバネの選択それ自体が単なる設計的事項であるという事情を勘案するとしても、このような一般論をそのまま本件の場合に適用して、乙考案の構成要件(ハ)において明示する「常時外側へ押圧するスプリング」の技術的意義を拡張して「自動復帰用スプリング」と解釈し、ひいては、右の相違点(乙考案の作用効果(二))を過少に評価することは失当であり、結局、抗告人の右主張は採用することができない。

4 以上のとおり、乙考案とハ号物品とは、その構成及び作用、効果において相違し、これらにつき、一部合致するところがあるとしても、ハ号物品は、乙考案の技術的範囲に属するとすることはできない。

五 丙考案とハ号物品との対比判断

1 まず、前者の構成要件(ろ)とこれに対応する後者の構成部分とを対比すると、前者における「操作ピン」(9、10)及び「操作レバー」(14)は、それぞれ後者の「支持棒4、4a」及び「支持板16」に対応し、かつ、後者において、その「支持棒4、4a」が保護カバーの内側に突設されており、「支持板16」が昇降自在に設置されているものの、前者が「操作ピン1(9、10)を「操作レバー」(14)上へ「支承」することを必須の要件としているのに対し、後者においては「支持棒4、4a」が「支持板16」に穿設された「掛止孔10、10a」に「挿入掛止」されているのであるから、この点を、両者の構成に関する相違点といわざるをえない。

以下、右相違点につき、検討する。

前者では、操作ピンと操作レバー間の機械的結合(ないし係合)の態様が「支承」であり、後者では、その支持棒と支持板間のそれが挿入「掛止」である。そして、抗告人は、丙考案の「支承」の概念中には、「掛止」も当然含まれるべきである旨主張する(抗告理由二)ので、この点について検討する。

(一) 公報(二)によれば、丙考案の明細書中、考案の詳細な説明の項には、構成要件(ろ)における「支承」の技術的意味を明らかにする直接の記載がないところ、右考案の詳細な説明の項には、その操作ピンと操作レバー間の機械的結合の態様について、次の記載のあることが一応認められる。

(1) 「この考案は……操作レバーの左右両側上部へ保護カバーの操作ピンを当接することによつて……改良したものである」(2欄一行~八行)

(2) 「操作レバー14の上部両側に架設したロール17、18上へ操作ピン9、10を当接することによつて、操作ピン9、10がほぼ同一高さになつている」(2欄一八行~二一行)

(3) 「操作レバーを下圧する操作ピン9、10のいずれか一方が持ち上げられると、操作レバーは作動片により押し上げられる」(2欄二六行~二八行)

(4) 「操作ピン9の下側が操作レバー14の左側に設けた受片33と当接しなくなるので、」(3欄一二行~一四行)

(5) 「第4図は……操作レバー14の受片34に掛つた下圧力が取除かれるので、操作レバーは第4図中鎖線図示のように斜に持ち上げられ……ことになる」(3欄一八行~二三行)

右の各記載のうち、(1)、(2)及び(4)の各記載は、右の両部材間の機械的結合の態様が「当接」であることを示し、(3)及び(5)の各記載においては右の機械的結合関係は、「当接」であることを少なくとも示唆するものである。

さらに、公報(二)によれば、丙考案の図面においては、「操作ピン」(9、10)が「操作レバー」(14)に「当接」しているもののみが示されていることが一応認められる。

(二) 公報(二)によれば、丙考案の明細書中、操作レバーと操作ピンとの結合関係に限らず、広く「掛止」という表現が用いられている記載として、次のものがあることが一応認められる。

(1) 「枠体1……に……掛止杆5、6を挿通掛止する掛止孔7、8と操作ピン9、10の挿通孔11、12を穿設し、」(2欄一一行~一四行)

(2) 「各保護カバー3、4の下部掛止杆にはスプリング19、20……上部掛止杆と相俟つて保護カバーを垂直の正しい位置に保持している。図中21は虫受皿、22はその吊杆、23は吊杆掛止具、24は掛止具吊スプリング、25は虫受皿を吊下することによつて接続し、」(2欄二八行~三五行)

(3) 右(1)、(2)で述べた掛止杆その他を図面の簡単な説明の項において単に列記したにとどまるもの。(4欄一六行~二二行)

右の記載を検討するに、公報(二)、特にその図面第2図によれば、「上部掛止杆」(左方のものに符号「5」が、右方のものに符号「6」が、それぞれ付されている。)は「掛止孔」(左方のものに符号「7」が付され、右方のものには符号が付されていない。)に挿通し掛止されており、「下部掛止杆」(右方のものに符号「6」が付され、左方のものには符号が付されていない。)も同様、「掛止孔」(右方のものに符号「8」が付され、左方のものには符号が付されていない。)に挿通し掛止されていることが一応認められ、また、「枠体1」の下端面には適当な「欠所」ないし「孔」が設けられており、「吊杆22」の屈曲した部分がこの孔に挿通され、さらに「吊杆掛止具23」に掛止されていることが一応推認される。

これら(二)の項(1)、(2)、(3)の各記載の内容を考慮すると、丙考案の明細書においては、「掛止」という用語は、当該技術上「一方の構成部材には「杆」を、他方の構成部材には「孔」をそれぞれ設け、「杆」を「孔」に挿通して係合することにより、両部材間に一体的ないし固定的な支持を形成する機械的な結合の態様」を指すものとして使用されているということができる。

(三) 右(一)及び(二)によれば、丙考案の構成要件(ろ)における「支承」は、「掛止」を含まず、概ね「当接」と同じ意味合で用いられているものと解され、「支承」が「掛止」を含むとする抗告人の主張は理由がない。

2 丙考案において、操作ピンを操作レバー上へ支承することの技術的意味は右のとおりであり、他方、ハ号物品においては、その支持棒4、4aと支持板16との間の機械的結合の態様は「掛止」のみであり、しかも、この「掛止」のもつ技術的意味は、丙考案における「掛止」のそれとほぼ同様であると解され、丙考案における「支承」中には含まれない。したがつて、丙考案とハ号物品との間には、この点において構成上明らかな相違があり、すでに丙考案の構成要件上、右のとおり相違する以上、「電撃殺虫器における安全装置」という特定の物品の構造について具体化された考案として、両者が別異のものであるとするに十分であるから、その余の構成、作用効果等に触れて判断するまでもなく、ハ号物品が丙考案の技術的範囲に属するとすることはできない。

六 以上の次第で、ハ号物品は、乙考案、丙考案のいずれの技術的範囲にも属せず、相手方らがハ号物品を製造し、販売し、販売のため展示しても、右両考案の実用新案権のいずれをも侵害するものとは認められないから、結局、本件仮処分申請は被保全権利の存在について疎明を欠くものであり、保証をもつて疎明に代えることも相当ではない。

よつて、右申請を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却する。

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